なぜナステント事業の進出先として欧州を選んだか?

睡眠時無呼吸症候群・いびきの医療機器市場

苦戦中のback2sleep事業ですが、今日はなぜナステント事業の次の展開先として欧州(ヨーロッパ)を選んだか、という話を書きます。

私たちが展開している医療機器は、睡眠時無呼吸症候群・いびきの医療機器市場に分類されています。

市場規模は調査によってかなりの振れ幅がありますが、睡眠時無呼吸症候群の医療機器に限っても世界でだいたい1兆円くらいのマーケットで、年率10%程度で成長していると言われています。

いびきは睡眠時無呼吸症候群になりかけの状態ということもでき、(睡眠時無呼吸症候群を含めた)いびき患者数は10億人ともそれ以上とも言われています。そのうち睡眠時無呼吸症候群を発症している人は30%くらい。

睡眠時無呼吸症候群・いびきの市場は先進国がマーケットをけん引していて、中でもアメリカが約50%のシェアを持っているという、特異なマーケットです。

ちなみに、先ほど見たようにいびき患者(で睡眠時無呼吸症候群でない患者)は睡眠時無呼吸患者の2倍以上いるわけですが、いびきを治療する人は限られていて(罹患者数の1%程度とも言われている)、いびきの医療機器の市場は、睡眠時無呼吸症候群の市場に比べてはるかに小さいのが現状です。

欧州市場を選んだ理由

じゃぁ、アメリカ行くのがいいよね?というのが普通の考えなのですが、アメリカにはそれなりのハードルがあります。

・市場は大きいが、州によってもニーズが異なり、細かいマーケティングをしないといけない。無策で行くと砂漠に水を撒きに行くようなものになってしまう

・FDA(Food and Drug Administration)の認証プロセスはそれなりに大変で、我々のようなベンチャー企業にはハードルが高い

・何といっても訴訟が盛んで、その点でも体力のない我々のようなベンチャーには非常にリスキー

ということで、将来のアメリカ進出を睨んで、欧州でまず小手調べをしようということに決めたのでした。

欧州を選んだ理由は下記の通りです:

・ナステント時代にヨーロッパ法人のCEOをやっていた人物がフランスにいた。そういう意味でヨーロッパには地盤があった

・欧州にはMDR(The European Union Medical Device Regulation)という認証があるが、初期調査の結果我々の医療機器はクラス1という届出だけで済むクラスに位置づけられることが分かった(しかも処方箋不要)。またMDDに準じていればEU加盟国のすべての国で販売ができる

・ドイツに優秀なシリコン材加工メーカーが見つかった(さすがドイツ!)

なぜフランスに本社を設置したか?

これは、正直なところ先述の元CEOがパリに住んでいたから、という意以外の理由はありません。

フランスは一般的に労働者の権利が非常に強く、退職金の積み立てが法律で保護されていたり、退職後の給料をある程度保証しないといけなかったりと、ものすごい費用が掛かります。法定福利費は日本においてはだいたい給料の15%ですが、フランスは40%。

こんな感じなので、欧州に進出する外国企業は、だいたいオランダに法人を設立します。

とはいえ、リモートでビジネスをするとなると、現地に信頼できる人物がいるかどうかは、一丁目一番地の問題。

ということで、必然的にフランスに本社を置くことになったのでした。

フランスに本社を置いて良かったこと

何といっても元CEOの顔が効く国だということ。そしてパートナーガ元CEOという、支社とは言え会社経営の経験者であったこと。

オフィスも超格安で借りられましたし、インターネットなどオフィス環境の整備がとても安上がりでした。ベンチャー企業向けのシェアオフィス等もありますが、どうしても割高になりますからね。

会計事務所や顧問弁護士なども、元CEOの人脈を使ってとても安くできました。

ベンチャー企業にとってはこうした管理コストを抑えるのは超重要(売上がありませんからね。出ていく方を抑えるしかありません)

事業の初動においても、いろんなものが安くできました。

私たちのビジネスにも、これだけの人たちが関わっています:

・前述の会計事務所、法律事務所

・銀行

・不動産賃貸の会社

・オンラインで通販をするために必要なシステム開発会社、Web制作会社(ショッピングシステム自体はShopifyを使い、在庫管理システムなどをそこに「建て増し」している)

・翻訳会社(多言語展開が必要なため)

・決済代行会社やドメイン管理会社

・MDDへの届出をするための薬事コンサルティングをしてくれる会社

・製造委託先(チューブ加工、製品の組み立て)

・部材を提供してくれるサプライヤー(マニュアル、ラベル、パッケージ、潤滑剤)

・物流(倉庫)会社

・オンラインマーケティングの委託先(SEO、SEMなど)

・製品を各国に売ってくれるディストリビューター

などなど。

開発は日本でやっていても、これだけのものが揃わないとビジネスが始められません。こうしたものを完全にリモートで行うことなど到底できません。

現地に信頼できるパートナーがいたからこそ立ち上げられたのです。

そういう意味で、ベンチャー企業が海外に進出するときは、ほとんどこうした「縁故」を頼りに進めていくのが現実的。フランスはどうとかオランダの方がいいとか、そういう選択肢はほとんどない、というのが私の実感でした。

すべては「縁」から始まっている

ということで、ベンチャーキャピタルから出資を受けているわけでもない我々のような場合は、本当にこういう「縁」でビジネスをできているのだなぁと思います。

考えてみれば、アジアなどではなく欧州を迷いなく選んだのも、小さいころに親の転勤で旧西ドイツに住んでいたためドイツ人やらフランス人やらに親近感を抱いていた、ということも少なからず影響していると思います。

そんなこんなで、経営はなかなか教科書通りにはいかない、というお話でした(それがいいと言っているのではなく、そうなっちゃうなぁという話ですが。。)

back2sleep事業奮闘記(1)始まりで終わり?

back2sleepのご紹介

今、日本ではナステントという会社で代表取締役をしています。

この会社ではナステント®という製品を開発、販売しています。いびきを軽減することを目的とした一般医療機器です。チューブ状のシリコンを鼻に入れて寝るとあらびっくり(?)、いびきが低減する、というものです。

とても手軽にできるいびき対策で私も使っているのですが、問題は価格が高いこと。日本の薬事規制で一般医療機器としては1回1回使い捨てにせざるを得ないため、毎日使うと1ヶ月で税込12,744円かかります(2024年10月現在)。

これを何とかしたいと思って開発したのがback2sleep®。ヨーロッパの薬事規制では一般医療機器でも連続で15回までの利用が認められているため、2本のチューブをリユースすることで30日分使えるようにしています。

back2sleep®の商品サイトはこちら。(個人輸入であれば日本からも買えます)

価格は1年間のサブスクリプションで、クーポン等を使うと実質税込249€(約40,836円)。1ヶ月3,000円ちょっとで使えます。

いびき対策グッズとしてはちょうどボリュームゾーンに入る価格帯にすることができました。それでいて医療機器であり、臨床試験で効果はきちんと実証されています。

絶対の自信作だが、なかなか売れない

念入りに市場調査を行い、開発からヨーロッパ市場に合わせて作り込みました。

実際に出来上がった試作品を使ってみると、日本のお客様には申し訳ないのですが、特許申請中の新しい仕組みにより鼻へのフィット感がナステントよりも格段に良く、これはいい!というものができました。これで価格は日本の4分の1です。

さまざまな工夫で、製品バリエーションも少なくすることができました(日本は24種類、ヨーロッパは4種類)。これで在庫管理等も格段に楽になるはずです。

ドイツにかなり良いシリコンチューブの製造委託先を確保し、協力者のいたフランスに会社を作り、リモートCEOになり、「さて行くぞ」となったのですが、これがなかなかイバラの道。

最初は生産においてもいろいろ問題がありました。特に鼻に止めるクリッパー(針金状のもの)の歩留まりが悪く、再委託先のフランスの会社をドイツの会社に切り換え、そこでクリッパーの製造をしてもらうことにしました。

針金問題が解決した後も、シリコンの射出成型時にクリッパーとの位置関係が変わってしまったり、シリコンの内部に気泡のようなバリが出たり。生産工程の段取りにも問題が出て、なかなか製品ラインが空かなかったり。結局生産の安定化に1年を要しました。

でも、そこをクリアすればあとは売るだけ。じつはナステントはヨーロッパでも販売していた実績があり、当時集客も頑張っていて月間10万人が来ていたのでした。それを当てにそろばんをはじくと売れるはずでした。

が、サイトを公開してみると、ん、月間1,000人しか来てない?なんと、先方のパートナーからの情報で期待していたユーザ数の1%しかありません。。。

そこからSEO対策をやり直しここまで来ているのですが、それでも全然うまくいかない。

日本のSEOは素人である私がやっているのですが、それでもヨーロッパの10倍以上の検索ワードからの流入があります。

海外サイトのSEOは難しい

そこで、私も海外サイト(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語)のコンテンツを読み、SEO対策をどう改善すればいいのか、乗り出しているのですが。。。

やっぱり海外、難しいのです。どんなコンテンツがひきが強そうなのか、全然見当がつかない。。。

例えば日本ではいびきをかく人はいびきアプリを探している人が多く、いびきアプリでSEO対策をするとけっこう人が来てくれます。が、ヨーロッパにはまったくそんな風習がない(いびきアプリの開発会社はイギリスの会社なのですが。。)。

代わりに、睡眠クロノタイプとか、錯乱性覚醒とか、日本ではほとんど見たこともないキーワードでお客様がいらっしゃっている。

やっぱり住んでいないとわからんなぁ、というのが本音です。

アウトソース先にある程度任せていたもののやはりとても薄いコンテンツが量産されてしまうので、日本での成功事例を共有するなどしているのですが、やはり文化の壁は大きい、と実感します。

この点、安心してビジネスを任せられる人(特にマーケティング)が先方にいないのであれば、安易に海外進出はすべきではないなぁ、と反省しています。

徹底的なリーンオペレーションをしているが。。。

最初から、全額自己資金で始めたビジネスなのでとにかく損益分岐点を下げようと思って事業の構築をしてきました。

ポイントは人件費を筆頭に固定費をできるだけ削ること。実際私の会社では、雇用している人はゼロで、全部業務委託です。

その結果、SEO対策を外部委託しつつも、月間の運営費はだいぶ抑えています。それでも、SEOやカスタマー対応、薬事対応は最低限お願いせざるを得ません。そこにペイドアド(広告費を払ってメディアに広告を掲載する)が加わると、そこそこの金額になります。

もう一つは、財布の口をきちんと握っておくこと。銀行口座は日本から見られるようにしていて、請求書等の情報もリアルタイムに見られるようにしています。こうして、リモートであっても無駄なお金が出ないように気を付けることはできています。(この方法は日本のナステント社においても同じく実践しています。零細企業においては財布は何よりも重要なものです)

でも、結局のところ、商売は売れないと何も始まらないわけですから、出発点からなかなか進まないうちに数か月が過ぎてしまった。そんな感じです。

撤退も考え始める

ずるずるやっていても芽が出そうもなければ撤退する。それは鉄則ですが、いざ自己資金をつぎ込んでみると、製品は競争力があるし(少なくとも日本では類似品で製品が高いにもかかわらずお客様がついていて、利益率が低いにもかかわらず事業が回っている)、絶対芽が出るはずだ、と思ってしまう自分がいます。

そして事業はサンクコスト効果(埋没費用ともいう。それまでに費やした労力やお金、時間などを惜しんで、それが今後の意思決定に影響を与えること)に縛られず、これからの収益性だけで考えるべき、という鉄則は重々承知でも、なかなか判断がつかない。

経営の鉄則、頭に入れるのは簡単ですが、実際立場が変わると(たとえば、私が立て直しのための新任雇われ経営者としてある会社に赴任したら、簡単にこのビジネスをやめさせることはできる)、なかなか判断もできないものだなと思います。

また、そもそもの話として、ビジネスには我慢が必要な時が必ずありますが、それがどれくらい必要なのか、我慢していればその先があるのか、その見極めは言うほど簡単ではないなぁと実感しています。

今、うすうす気づき始めているのは、キーサクセスファクター(KSF=成功のカギ)は、お客様の「製品や会社に対する信頼」なんじゃないかということ。医療機器の分野では、とても大切なこと。

そう考えると、コストを考えて、オンラインに絞って展開しようと思っていたところに無理があったのかもしれません。

でも、この「信頼」を構築するには非常に長い年月とコストを必要とします。自己資金でやるビジネスとしては不向きだったのかもしれません。

ということで、重点KPIを立てて、その結果いかんで年末には撤退か継続かの判断することにしました。

それなりに長い間会社の経営をしていても、なかなか難しいものです。

ごあいさつ

当社ウェブサイトをご覧いただきまことにありがとうございます。

当社は、スタートアップの経営者を中心に、会社の経営でお困りの方に寄り添い、少しでもお役に立てればよいなと思い設立いたしました。

スタートアップの経営は、ドラマの連続です。まず、資金が続くかどうか。必要に応じて少なくとも新製品や新サービスローンチまでの資金調達を成功させなければなりません。

さらに、新製品や新サービスのローンチにこぎつけるまでが大変です。委託先の倒産や業務転換で突然契約を切られたり、製造業の場合はなかなか品質が安定しなかったりと次々と難題がやってきます。

やっとリリースできたと思ったら、いろいろな想定が外れてなかなか計画通り売れない。そんなこんなをしているうちに社内の重要な人が離脱した、何か事件を起こしてしまった、などなど。ステージが変わって少し安定してきたなと思うと、今度は新手の困難が必ずやってきます(製品・サービスが模倣された、なども)。なんでこんな茨の道を選んだんだろう、と後悔すらしてしまうこともあるかもしれません。

私も、「社会を震撼させるようなスキャンダルを起こした会社」のM&Aを担当者として経験し、その会社のターンアラウンドをしていく過程で、いくつもの危機に直面してきました。なんとか結果オーライであったから良かったものの、今から思うと、もう少し相談できる人がいたり、自分として処方箋を持っていたら楽だったのにな、と思います。

経営トップは、どんな情報が少ない時でも決断をしなくてはいけません。社内の人といろいろ議論をしても、最後は自分で決めなくてはなりません。でも、社内の人には最後の最後でどうしても打ち明けられないことがあるのも事実です。社内の人は、最終的に道連れにしてしまう相手でもありますからなかなか相談できませんよね。経営者は孤独だとよく言われますが、実際にやってみると、本当にそうだなと思います。

そんな時に、聞き役として話を聞いたり、壁打ちしたり、そんな形で経営者のサポートをしていけたら、と考えています。形はコーポレートアドバイザー(いわゆる顧問)でも社外取締役でも、ただの人でも何でも構いません。

そこそこ成功(上場)も失敗(破産!)も人一倍体験してきたので、少しはお役に立てることがあるかな、と思っています。

経営トップの思いやゴールは、会社ごとにすべて違います。ですので、解決策もすべて違うはず。私は、通り一遍の「経営コンサルティング」を提供することはいたしません。課題や思いをお伺いし、そこに対して「それだったらこういう選択肢もあるかも?」という可能性をご提示しながら、一緒に課題を解決していくスタイルを取りたいと思っています。

まずは気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

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